2012年5月31日木曜日

刑罰規定の読み方・・・生活保護法の罰則、「正条があるときは」



接見に行って,観念的競合の意味を説明したことがあります。条文を読んでも意味が分からないことは,あるかもしれません。

特に刑事罰規定は,罪刑法定主義の影響もあり,かなり厳密です。

生活保護法にも罰則があります。罰則規定は,かなりの法令にまたがっていて,いわゆる刑法だけが犯罪ではありません。これを特別法による罰則といいます。


(罰則)
第八十五条  不実の申請その他不正な手段により保護を受け、又は他人をして受けさせた者は、三年以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する。ただし、刑法 (明治四十年法律第四十五号)に正条があるときは、刑法 による。

第八十六条  第四十四条第一項、第五十四条第一項(第五十四条の二第四項において準用する場合を含む。以下この項において同じ。)若しくは第七十四条第二項第一号の規定による報告を怠り、若しくは虚偽の報告をし、又は第二十八条第一項(要保護者が違反した場合を除く。)、第四十四条第一項若しくは第五十四条第一項の規定による当該職員の調査若しくは検査を拒み、妨げ、若しくは忌避した者は、三十万円以下の罰金に処する。

2  法人の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、前項の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても前項の刑を科する。



1項に聞きなれない「正条があるときは」があります。
一見,この1項は,詐欺(刑法246条)ぽい書き方をしていますが,よく見ると,少し違います。

刑法
(詐欺)
第二百四十六条  人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
2  前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。


詐欺の構成要件(分かりやすくいえば,条文の該当性のことです)は,「欺いて」です。刑法では,条文の言葉に該当しなければならないのが罪刑法定主義の基本となります。難しい刑法理論がありますが,刑法での詐欺罪は,単に嘘をいっただけでは成立しません。

「正条があるときは」とは,たとえば詐欺罪に該当するときは,刑法で処罰し,刑法で捉え切れない,該当しない場合は,上記の該当刑罰規定を適用するという意味になります。


生活保護法では,「不正な手段により」という場合で,例えば「欺いて」ではない場合その他刑法の罰則規定に該当しない場合は,上記の罪となるという規定です。

ある行為が複数の犯罪に該当したときに,どのような犯罪が成立するか,犯罪が成立したとして,どのような罪名になるのか,1個の犯罪と考えるのか,複数が両立するのか
などが刑法理論と共に必要になります。

法定刑は,詐欺罪より低いので,たとえば詐欺に該当しない(詐欺に該当しなくても窃盗になる可能性,横領になる可能性もあると考えられる)生活保護法の罰則に適用されるほうが被告人・被疑者にとって有利となります。

聞きなれない
「正条があるときは」
でした。

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