2010年6月22日火曜日

インターネットの個人利用者による表現行為と名誉毀損罪の成否

インターネットの個人利用者による表現行為と名誉毀損罪の成否
[ ITC法:名誉毀損 ]


Last updated 2010.03.24 18:43:12
http://plaza.rakuten.co.jp/utuboiwa/diary/201003240000/


ネット上の名誉毀損について,最高裁が判断をしましたので,

メモ的に書いておきます。

「目次」

1. 真実性・真実相当性法理

2. 念のための相当性要件

3. 最高裁平成22年3月15日決定

4. 具体的な当てはめと必要な資料・根拠

5. 名誉毀損にならないための対処法

「本論」
1. 真実性・真実相当性法理

名誉毀損を正当化されるためには,
 
1 公益性

2 真実性 

3 真実相当性

が必要されるとするのが,長年最高裁が積み上げてきた,

真実性・真実相当性の法理

です。

インターネット上の個人利用者において,この法理が適用されると最高裁が明言したのが,下記判例です。



2. 念のための相当性要件

誤解が時にありますが,3の真実相当性法理は,

行為時における真実性

ともいえるものです。

行為→裁判時(民事上では口頭弁論終結時)

となる場合に,裁判時における一切の資料をみれば,真実性は認められないが(つまり,虚偽である),

行為時における確実な資料・根拠に基づいたものであれば,

名誉毀損の責任を問わないというものです。


基本的に,真実相当性というのは,

後に明らかになる資料を省いても,真実性が認められる程度

でなければならないとする厳しい基準なのです。


3. 最高裁平成22年3月15日決定

最高裁平成22年03月15日第一小法廷決定(平成21(あ)360,裁判所Webサイト http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100317094900.pdf)は,

「しかしながら,個人利用者がインターネット上に掲載したものであるからといって,おしなべて,閲覧者において信頼性の低い情報として受け取るとは限らないのであって,相当の理由の存否を判断するに際し,これを一律に,個人が他の表現手段を利用した場合と区別して考えるべき根拠はない。そして,インターネット上に載せた情報は,不特定多数のインターネット利用者が瞬時に閲覧可能であり,これによる名誉毀損の被害は時として深刻なものとなり得ること,一度損なわれた名誉の回復は容易ではなく,インターネット上での反論によって十分にその回復が図られる保証があるわけでもないことなどを考慮すると,インターネットの個人利用者による表現行為の場合においても,他の場合と同様に,行為者が摘示した事実を真実であると誤信したことについて,確実な資料,根拠に照らして相当の理由があると認められるときに限り,名誉毀損罪は成立しないものと解するのが相当であって,より緩やかな要件で同罪の成立を否定すべきものとは解されない(最高裁昭和41年(あ)第2472号同44年6月25日大法廷判決・刑集23巻7号975頁参照)」

と判示し,インターネットの個人利用者においても,

真実性・真実性相当性法理

が適用されると明言しました。



4.  具体的な当てはめと必要な資料・根拠

具体的な当てはめも見てましょう。
「商業登記簿謄本,市販の雑誌記事,インターネット上の書き込み,加盟店の店長であった者から受信したメール等の資料に基づいて,摘示した事実を真実であると誤信して本件表現行為を行ったものであるが,このような資料の中には一方的立場から作成されたにすぎないものもあること,フランチャイズシステムについて記載された資料に対する被告人の理解が不正確であったこと,被告人が乙株式会社の関係者に事実関係を確認することも一切なかったことなどの事情が認められるというのである。以上の事実関係の下においては,被告人が摘示した事実を真実であると誤信したことについて,確実な資料,根拠に照らして相当の理由があるとはいえない」



本件の事案は,単にインターネット上の書き込みだけを根拠に,表現行為をしたものではありませんでした。

彼なりに,根拠をもってしているのが特徴的といえます。





しかし,最高裁は,それらの根拠,資料は,確実ではないと判断し,真実相当性が認められないとしたのでした。



「資料の中には一方的立場から作成されたにすぎないものもある」

これは,

「市販の雑誌記事,インターネット上の書き込み,加盟店の店長であった者から受信したメール」

を指すものと思われますが,事実を断定して書く場合は,一方の立場に偏ることなく中立的に資料をみて判断吟味する必要があるということをいっています。

敢えて不利な資料を知らない振り・無視が許されないのは勿論ですが,内部的な問題を書く場合は,なかなか難しい問題です。

しかし,真実性・真実性相当性法理が適用されるのであれば,当然の結論といえます。



「フランチャイズシステムについて記載された資料に対する被告人の理解が不正確であった」

これは,資料の分析能力の問題です。

資料の記載の能力不足は,相当性が認められることに直ちになりません。

基本的に,真実相当性の判断は,一般人を基準にしますので,基本的に能力不足は,表現者の責任となります。


資料の恣意的な読み方を許さないということもできます。



「被告人が乙株式会社の関係者に事実関係を確認することも一切なかった」

これは,取材の有無の問題です。一般的には,真実相当性については,関係者への取材が不可欠と考えられています。

一般人が問い合わせて,関係者が聞く耳を持つかという話しもあります。

しかし,最高裁は,個人利用者の取材の程度までは,少なくとも,この裁判では明らかにしておりません。



例えば,逆に,一般人が,メールで事実関係を送付し,それに答えなかったということで,

事実関係の確認をした(事実として認めたと取った)

とまではいえるかは,最高裁は何ら語っておりません。

仮に,これで取材としては足りるとするのであれば,関係会社も無視するだけでは対処として足りないという結構重要な問題をはらみます。



5. 名誉毀損にならないための対処法

名誉毀損にならないための対処法としては,

事実と評価とを明確に区別すること(しかし,これは,かなり手慣れないと難しい。)

事実を断定する場合には,極めて慎重な根拠,資料が必要である。

安易に情報を信じても,救われない

ということを意識する必要があります。



ネットは,個人が容易に情報発信者になることができますが,情報発信には,それに伴う責任も同じく発生するというのが,最高裁の結論といえます。


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H22.6.22現在のコメント

真実・真実相当性法理は,最高裁が作り上げてきたもので,かなりの精緻化がされています。
相当に同法理に自信を持っています。
その観点からすれば,特に目新しい判断ではないと考えます。

なお,これは刑事事件の判例ですが,
民事事件で真実・真実相当性法理を論じる際にも刑事事件の判例を引いている場合がありますので,この法理に関していえば,特に民事刑事を分けて論じる必要はありません。

元々刑事上の三分類説(TB,Rw,S)から理論構成されているのが,真実・真実相当性法理です。


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