2010年6月22日火曜日

募金詐欺…どこかで聞いたことがあるような

募金詐欺…どこかで聞いたことがあるような
[ 弁護士の仕事:刑事 ]

Last updated 2010.03.25 10:30:59
http://plaza.rakuten.co.jp/utuboiwa/diary/201003250001/


「はじめに」
偽募金は,悪質商法的な手法としては,極めて伝統的なものです。

一般的な善意の人々から,広く薄くとりますので,犯罪として立証するのは,大変な事案でした。

最高裁平成22年03月17日第二小法廷決定(平成21(あ)178,職業安定法違反,詐欺,組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反,裁判所Webサイト http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100323093806.pdf)
で,実務的にはかなりの影響を与える最高裁決定が出ました。

問題点は,

1 個々の被害者・被害金額を特定していないが詐欺罪の特定として足りるのか。

2 その場合の罪数

というものです。



募金詐欺は,個々の被害者からすれば,1円等の少額で,民事上では,争われないケースが多いと考えられます。

そもそも,路上等で,確かに,自分が幾ら募金をした

という証拠も保持しないものといえます。



民事上では解決し得ない問題ですが,1円であろうとも,被害者として告訴は可能ということになります。

また,告発は,何人でも可能です。



「目次」

1. 最高裁決定と補足意見

2. 犯罪の特定と,その意義と問題点

3. 罪数について

4. 組織犯罪処罰法への影響


「本論」

1. 最高裁決定と補足意見

最高裁平成22年03月17日第二小法廷決定(平成21(あ)178,職業安定法違反,詐欺,組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律違反, 裁判所Webサイト http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20100323093806.pdf)
は,一般的には妥当と思えるかもしれませんが,法律的には,かなり思い切った判断をしています。


この事件で,検察官は,詐欺の他に,職業安定法や組織犯罪処罰法の適用を求めています。

詐欺だけで,被害金額を完全に立証できる額だけを考えれば,量刑が不当となるという配慮でしょう。


当最高裁多数意見は,

結論的には,罪となるべき事実の特定の問題について,

「そして,その罪となるべき事実は,募金に応じた多数人を被害者とした上,被告人の行った募金の方法,その方法により募金を行った期間,場所及びこれにより得た総金額を摘示することをもってその特定に欠けるところはないというべきである。」

としています。

また,罪数については,

「この犯行は,偽装の募金活動を主宰する被告人が,約2か月間にわたり,アルバイトとして雇用した事情を知らない多数の募金活動員を関西一円の通行人の多い場所に配置し,募金の趣旨を立看板で掲示させるとともに,募金箱を持たせて寄付を勧誘する発言を連呼させ,これに応じた通行人から現金をだまし取ったというものであって,個々の被害者ごとに区別して個別に欺もう行為を行うものではなく,不特定多数の通行人一般に対し,一括して,適宜の日,場所において,連日のように,同一内容の定型的な働き掛けを行って寄付を募るという態様のものであり,かつ,被告人の1個の意思,企図に基づき継続して行われた活動であったと認められる。加えて,このような街頭募金においては,これに応じる被害者は,比較的少額の現金を募金箱に投入すると,そのまま名前も告げずに立ち去ってしまうのが通例であり,募金箱に投入された現金は直ちに他の被害者が投入したものと混和して特定性を失うものであって,個々に区別して受領するものではない。以上のような本件街頭募金詐欺の特徴にかんがみると,これを一体のものと評価して包括一罪と解した原判断は是認できる。」

として,包括一罪と解しています。



2. 犯罪の特定と,その意義と問題点

詐欺罪は,本来的には,個々の被害者との関係が問題になりますから,詐欺罪の構成要件を,その個々の被害者との関係で立証される必要があります。

欺罔行為ごとに,犯罪が成立すると解されていますので,全体として,こんだけという抽象的なものでは,特定に足りないとされています。


当たり前ですが,弁護人の立場からすれば,個々の被害者・被害金額が特定されなければ,示談や被害弁償の活動もできなくなりますので,弁護側からしても,当然立証されてもらわなければ困る


ということになります。



裁判官須藤正彦補足意見(これも,最高裁多数意見に,理論的根拠等を与えるもので重視されます)は,この法律的な立場から,かなりの法律家において疑問と思われる点を念のために述べています。

「本件の場合も,原判決が認定した約2480万円が被害金額であるというためには,その全額が,寄付者が被告人の欺もう行為によって錯誤に陥り,そのことによって交付した金員でなければならない。そうすると,不特定多数であるにせよ,個々の寄付者それぞれに錯誤による金員の交付の事実が合理的な疑いを差し挟まない程度に証明された場合にのみ,その交付された金員の額が被害金額として認定されるというべきである。本件のように包括一罪と認められる場合であっても,被害金額については可能な限り特定した被害者ごとに,錯誤によって交付された金員の額が具体的に証明されるべきであって,それによって他の被害者の寄付も錯誤によってなされたとの事実上の推定を行う合理性が確保されるというべきである。したがって,例えば,一定程度の被害者を特定して捜査することがさして困難を伴うことなく可能であるのに,全く供述を得ていないか,又はそれが不自然に少ないという場合は,被告人が領得した金員が錯誤によって交付されたものであるとの事実の証明が不十分であるとして,被害金額として認定され得ないこともあり得ると思われる。」



可能な限り,捜査すべし

というものです。


ただ,難しいのは,弁護側としては,特定された分については,被害弁償や示談ができたにも関わらず,全体としての金額で,詐欺罪の情状が決まってしまうので,余り被害弁償や示談に積極的にならない可能性があることは,問題となるところと思います。



同補足意見は,

「個々の特定した被害者ごとに被告人に反証の機会が与えられなければならないのであるが,犯意・欺もう行為の単一性,継続性,組織的統合性,時や場所の接着性,被害者の集団性,没個性性,匿名性などの著しい特徴が認められる本件街頭募金詐欺においては,包括評価が可能であり,かつ,相当であると考えられる。」

という特徴が必要とすることも,重要です。


出来る限り本来の詐欺罪の構成要件を立証することに捜査を尽くすべきという論理ととともに,その適用の前提として,

「犯意・欺もう行為の単一性,継続性,組織的統合性,時や場所の接着性,被害者の集団性,没個性性,匿名性などの著しい特徴」


を検察官に立証すべき義務を負わせたと理解できます。



通常は,集団詐欺といっても,個々の被害者・被害金額を立証することは可能です。

その手間を惜しんではならない,集団詐欺一般に適用されないように,多数意見の正当性を根拠付けていることになります。



3. 罪数について

罪数は,法律的な問題で,一般には余り関心が向かないところですが,通常の詐欺と同じように,個々の被害者ごとに詐欺が各々成立するという形であれば, 包括一罪ではなく,併合罪となります。


罪数の問題は,実質的には,上記の犯罪の特定理論に大きく関わるところです。



多数意見は,このような包括一罪と認められる事案に限り,犯罪の特定を,通常より緩やかにしてもよいとも読み取ることができます。



裁判官千葉勝美補足意見は,この観点から書いています。

「法廷意見は,被害法益は被害者個々人ごとに存在することを前提としているものであり,その点では,現行刑法の詐欺罪の従来の概念を一部変更するようなものではない。
 ところで,これを前提に考えた場合,本件街頭募金詐欺の犯行態様,特に,その被害者の被害法益に着目してみると,被害者は,自分が寄付した金額について,明確な認識を有しなかったり(例えば,ポケットに在った小銭をそのまま金額を確認せず募金箱に投入したケースなどが考えられる。),あるいは,認識を有していても,街頭で通りすがりの際の行為であるから,寄付の金額自体に重きを置いておらず,その金額を早期に忘却してしまうこと等があることが容易に推察されるところである。そして,募金箱に投入された寄付金は,瞬時に他と混和し,特定できなくなるのである。このように,本件においては,被害者及び被害法益は特定性が希薄であるという特殊性を有しているのであって,これらを無理に特定して別々なものとして扱うべきではない。
 欺もう行為が不特定多数の者に対して行われる詐欺は,本件のような街頭募金詐欺以外にも存在するところであり,虚偽の情報を広く流して不特定多数から多額の出資を募り,一定の金員を詐取するなどがその例である。しかしながら,このような犯罪は,欺もう行為が不特定多数に対してされたとしても,被害者は,通常は,その出資金額(多くの場合,多額に及ぶものであろう。)を認識しており,その点で,被害者を一人一人特定してとらえ,一つ一つの犯罪の成立を認めて全体を併合罪として処理することが可能であるし,そうすべきものである。
 他方,本件は,前述したように,被害者ないし被害法益の特殊性があり,それを被害者単位に犯罪が成立していると評価して併合罪として処理するのは適当でないと思われる。」


併合罪で処理し得ない,適当でない特殊性が要求されています。



逆にいえば,多数意見で通常の詐欺事件における特定の程度(これは,どこまで捜査をすればいいかという問題に直結する問題です)より緩やかでよいと認められるのは,上記の要件・特殊性を充たした,包括一罪と認められる事案のみであると,いっていると解してもよいと思われます。



4. 組織犯罪処罰法への影響

 組織的に,犯罪が行われた場合に適用される法律として,

  組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律

があります。

組織詐欺は,通常の刑法の法定刑とはかなり重く,

1年以上の有期懲役となります(組織犯罪処罰法3条1項9号)。


罰金刑はなく,下限も上限も重い。刑法の詐欺は,上限が10年ですが,組織犯罪になれば,20年以下になります。


それでも,組織詐欺は,本来的には,財産犯ですので,被害金額が最も重要な情状となります。いくら組織的でも,立証された被害金額が少なければ判決に認められる金額は少なくなるとするのが一般的です。


最高裁は,募金詐欺について,組織犯罪処罰法による立証された被害金額以上の組織的ということで重く処罰する道を選ばず,募金詐欺という特殊性で詐欺の通常の立証方法とは異なる方法でされることを選んだともいえましょう。



最近,最高裁が立て続けに重要な判例を出しています。


あっと驚く結論もありますので,追いかける作業は,弁護士にとっても重要です。


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H22.6.22現在のコメント

これも結構ちゃんと書いています。
取り敢えずの判例分析としては十分と自負します。

丁度この頃,組織詐欺をやっていまして
検察官が,言い出してくるのではないかと思って,キチンと見たからと思います。

この最高裁の適用主張はしてこないまま,執行猶予で終わりました。

事件に関わる判例分析は,鋭さが違いますねえ,自分ながら。
必死さが違いますから。

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