2010年8月2日月曜日

特許:併用効果の場合の顕著な効果の記載はあるか?,特に知財高裁平成22年7月15日判決(平成21年(行ケ)第10238号審決取消請求事件)との関係について「解釈基準」

特許:併用効果の場合の顕著な効果の記載はあるか?,特に知財高裁平成22年7月15日判決(平成21年(行ケ)第10238号審決取消請求事件)との関係について「解釈基準」

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知財高裁平成17年11月8日判決(平成17年(行ケ)第10389号審決取消請求事件)

知財高裁第4部「塚原朋一コート」


 以上の記載によれば,本願発明の特許出願当時,解熱鎮痛消炎剤とトラネキサム酸とを併用することは,少くとも拮抗作用ではなく,協力作用が得られる組合せであって,解熱鎮痛消炎剤とトラネキサム酸とを併用することの効果が相加的であるのか相乗的であるのかはともかくとして,治療効果を向上させる配合として考えられていたということができる。


 (4) 以上によれば,引用例1,特にその中の段落【0006】の記載(上記第2の3(1)ア(ア-4)のとおり)に接した当業者は,審決が説示するように,「トラネキサム酸は実施例のアセトアミノフェンに限らず,例示されたいずれの成分とも配合できることが教示されている。」と認識し,かつ,引用例1に例示された解熱鎮痛消炎剤の一つであるエテンザミドについて,シロップ剤としてトラネキサム酸と配合され得ることが示唆されていると認識すると認められる。
 したがって,審決が「トラネキサム酸は実施例のアセトアミノフェンに限らず,例示されたいずれの成分とも配合できることが教示されている。」と認定したことに誤りはない。


 (3) もっとも,本願明細書には,上記のように,「本発明に用いられるサリチル酸系抗炎症剤としては・・・エテンザミドが特に好ましい。」(段落【0005】)との記載があり,さらに,「【0015】表1より,エテンザミド50mg/kg及びトラネキサム酸200mg/kg単独での抑制率は,それぞれ10%及び14%であり,両薬剤とも軽度の抑制作用が認められた。一方,両薬剤を併用投与した場合の抑制率は56%であり,対照群との間に有意差が認められた。また,この作用をバルジの方法にて検討したところ,併用投与群の相対指数(0.44)は,各単独投与群の相対指数の積(0.77)よりも小さく,併用による相乗効果が認められた。【0016】表2より,エテンザミド100mg/kgおよびトラネキサム酸50mg/kgを併用した場合の抑制率は42%であり,対照群との間に有意差が認められた。また,この作用をバルジの方法にて検討したところ,併用投与群の相対指数(0.58)は,各単独投与群の相対指数の積(0.83)よりも小さく,併用による相乗効果が認められた。」との記載がある。


 しかし,本願明細書には,エテンザミド以外のサリチル酸系抗炎症剤にトラネキサム酸を配合した例の記載がなく,エテンザミドを採用することが,それ以外のサリチル酸系抗炎症剤を採用することと比較して,格別に顕著な効果を奏するものであることをうかがわせるような記載もない。そうであれば,本願明細書の段落【0005】,【0015】及び【0016】に上記のような記載があるだけでは,エテンザミドを特定した本願発明が,それ以外のサリチル酸系抗炎症剤を採用する態様に比較して,格別に顕著な効果を奏すると認めることはできない。
 そして,上記1(2)のとおり,本願発明の特許出願当時,解熱鎮痛消炎剤とトラネキサム酸とを併用することは,協力作用が得られる組合せであって,治療効果を向上させる配合として考えられていたのであるから,本願発明の特許性判断において,格別顕著な効果があると認めるためには,単に相乗的な協力作用が得られるというだけでは足りず,エテンザミド以外の解熱鎮痛消炎剤成分であるサリチル酸系抗炎症剤との配合によっては得ることのできない固有の効果がなければならないが,上記のとおり,本願明細書には,その評価に必要な根拠となるべき記載がないから,結局,本願発明が格別に顕著な効果を奏するとは認めることはできない。


 (4) 原告は,試験成績証明書(甲12,13)にあるように,サリチル酸系抗炎症剤としてよく知られたアスピリン,サリチル酸ナトリウム及びサイチルアミド並びに引用例1に記載されたアセトアミノフェンとトラネキサム酸とを併用した場合の抗炎症効果を試験したところ,併用による抗炎症効果の増強作用は認められなかったから,本願発明のエテンザミドとトラネキサム酸との併用による抗炎症効果の相乗的増強作用は,格別顕著なものであると主張する。

 しかし,上記(3)のとおり,本願明細書には,エテンザミドを採用することが,それ以外のサリチル酸系抗炎症剤を採用することと比較して,格別に顕著な効果を奏するものであることをうかがわせるような記載はないから,原告の主張は,本願明細書の記載に基づかないものである。そして,引用例1の段落【0006】には,解熱鎮痛消炎剤としてのエテンザミドと抗炎症剤としてのトラネキサム酸とを配合する点について,少くともその組合せが示唆されているものであり,また,上記1(2)のとおり,本願発明の特許出願当時,解熱鎮痛消炎剤とトラネキサム酸とを併用することは,協力作用が得られる組合せであって,治療効果を向上させる配合として考えられていたのであるから,本願発明のエテンザミドとトラネキサム酸との併用による効果についても,協力作用が期待され,治療効果の向上が予測されるところである。そうであれば,本願発明が格別に顕著な効果を奏するとは認めることができないのであって,原告の上記主張は,採用することができない。

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縮小版

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特許法29条2項の要件充足性を判断するに当たり,つまり,「進歩性の判断において,「発明の効果」を出願の後に補充した実験結果等を考慮することが許されないのは,上記の特許制度の趣旨,出願人と第三者との公平等の要請に基づくものであるから,当初明細書に,「発明の効果」に関し,何らの記載がない場合はさておき,当業者において「発明の効果」を認識できる程度の記載がある場合やこれを推論できる記載がある場合には,記載の範囲を超えない限り,出願の後に補充した実験結果等を参酌することは許されるというべきであり,許されるか否かは,前記公平の観点に立って判断すべきである。」(知財高裁平成22年7月15日判決(平成21年(行ケ)第10238号審決取消請求事件))(以下「平成22年判例」という)



この点,

知財高裁平成17年11月8日判決(平成17年(行ケ)第10389号審決取消請求事件)(以下「平成17年判例」という)
を根拠に,出願後の実験結果の参酌を認めないとする見解がある。

しかし,

そもそも,平成17年判例の事案は,

「エテンザミド以外の解熱鎮痛消炎剤成分であるサリチル酸系抗炎症剤との配合によっては得ることのできない固有の効果がなければならないが,上記のとおり,本願明細書には,その評価に必要な根拠となるべき記載がないから,結局,本願発明が格別に顕著な効果を奏するとは認めることはできない。」
として,本願明細書に,「評価に必要な根拠となるべき記載がない」としたものであり,

平成22年判例で問題となった,
「本願当初明細書には,「現在,驚くべきことに,本組成物が優れた安定性(特に光安定性),有効性,及び紫外線防止効果(UVA及びUVBのいずれの防止作用を含めて)を,・・・提供することが見出されている。」(甲3,段落【0011】),「好ましい有機性日焼け止め剤活性種は2-フェニル-ベンズイミダゾール-5-スルホン酸である」(甲3,段落【0025】)と記載されているから,当業者は,UVBフィルターとして「2-フェニル-ベンズイミダゾール-5-スルホン酸」を含み,他の特定成分と組み合わせた本願発明の組成物が優れた紫外線防止効果を有することを理解し,各組成成分の和を超えた相乗効果をも奏し得るであろうことを理解することができるといえるから,被告の上記主張は採用の限りでない。」
として,
「他の特定成分と組み合わせた」「相乗効果」が記載されていた事案とは異なるものである。


そもそも,出願後の実験結果が一切参酌できないというのであれば,平成17年判例が,

「本願明細書には,エテンザミドを採用することが,それ以外のサリチル酸系抗炎症剤を採用することと比較して,格別に顕著な効果を奏するものであることをうかがわせるような記載はないから,原告の主張は,本願明細書の記載に基づかないものである。」

と判示するわけがない。

つまり,
平成17年判例も,
そもそも出願後の実験結果を採用することはできないと,主張自体失当としたものではない。

平成17年判例は「主張は,本願明細書の記載に基づかないものである」とした上での判断であり,判断基準としては,

上記平成22年判例と
同じ基準を採用したものと言わざるを得ない。


したがって,
平成17年判例
は,平成22年判例と何ら矛盾するものではない。


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H22.8.2現在のコメント

特許:進歩性の判断において,出願の後に補充した実験結果等を参酌することの可否「判断基準」

に関して再度検証しました。


仮に,
知財高裁平成22年7月15日判決(平成21年(行ケ)第10238号審決取消請求事件)
に上告受理申立をするならば,
知財高裁平成17年11月8日判決(平成17年(行ケ)第10389号審決取消請求事件)
を,判例違反に掲げるということにはなるでしょうが,

統一的な解釈は十分に可能です。


知財高裁平成17年11月8日判決(平成17年(行ケ)第10389号審決取消請求事件)は,
知財高裁平成22年7月15日判決(平成21年(行ケ)第10238号審決取消請求事件)
のように明確に判断基準を出してはいません。


しかし,そもそも,出願後の実験結果が一切参酌しないというのが妥当であるならば
(前にも書きましたが,私は,このような評価はしません。あくまで判例がいっていることは,こうです。と書くだけです),


知財高裁平成17年11月8日判決(平成17年(行ケ)第10389号審決取消請求事件)

も不当な判決となるはずです。

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判例のまとめを,今はUPはしていませんが,
これはUPに値します。

今後非公開予定の判例についての私のまとめ方の態度が見られると思うからです。


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H22.8.3現在のコメント

見つけましたので,
ついでに付記します。

知財高裁第4部「滝澤孝臣コート」

知財高裁平成22年5月26日判決(平成21年(行ケ)第10319号審決取消請求事件)は,

「この点について,原告は,平成21年6月23日に行った原告実験において,上記数値範囲の平均値である10バールの圧力の圧縮ガスを使用した方が,上記数値範囲位下の7バールの圧力の圧縮ガスを使用するよりも,ヘアトリートメント組成物の毛髪への分配が有意に優れることが確認されたと主張するが,そのような効果については本願明細書が記載するものではない上に,原告実験において,9ないし11バールという数値範囲のすべての部分でその効果が満たされること,また,その数値範囲を超える圧力の圧縮ガスを使用したものとの関係で臨界的意義があることも認められないものであって,原告実験をもって,本願発明の効果をいう原告の主張を採用することができない。
したがって,本件審決が本願発明の効果を看過したという原告の主張は,その前提において,理由がない。」

としています。審決は,平成21年6月21日ですので,出願後の実験です。

出願後実験が,そもそもできないのであれば,
「本願明細書が記載するものではない上に」
と書く必要がありません。
主張自体失当であるとしなければなりません。


「本願明細書が記載するものではない上に」
は,反対解釈すれば,

明細書に記載されていれば「原告実験をもって,本願発明の効果をいう原告の主張を採用」することができる余地がある。

と読めます。

これも,平成22年判例と矛盾しません。


平成17年判例の「塚原朋一コート」
平成21年判例の「滝澤孝臣コート」
が認めた基準を,

平成22年判例の「飯村敏明コート」が,基準として,まとめた

とも読めます。

「飯村敏明コート」は,結構このように明確に基準をまとめたりしますので,
基準として提示されているという意味が,大きいといえます。

もちろん,最高裁判断がないという今の状態での話しです。

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H230317現在のコメント

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