2010年8月30日月曜日

先回り剽窃的出願は許されない:商標法4条7号1号「公の秩序や善良な風俗を害するおそれ」

事実認定が主となるものは,本ブログで紹介するときもあります。

塚原朋一裁判官(知財高裁所長,知財高裁第1部裁判長)が退官となり,
その直前のH22.8.19判決が,ガサッとUPされています。

今回取り上げたのは,

知財高裁平成22年8月19日判決(平成21年(行ケ)第10297号審決取消請求事件(商標))

です。

法律上の請求には,
法律的にきつい
というものと
事実認定のための立証がきつい
というものがありますが,

商標法4条7号1号は,事実認定の立証がきつい部類と考えられます。



ア本件商標の出願における被告の悪意について
前記認定のとおり,平成14年(2002年)7月2日,当時,マザーボードの分野における台湾の最大手の製造メーカーであり,マザーボードの世界シェア1位のASUSTeK社が,同月中に,中国において,同社の第二のブランドとして「ASRock」というブランドの製品をデビューさせると見込まれる旨の本件ニュース報道がウェブサイト上で流され,その後即座に,多数の関連ニュースが報道され,その翌日には韓国においても同様のニュースが報道されたこと,本件商標の韓国における原基礎登録商標の出願はその翌日であること,その後,ASRock社が,引用商標及び標章「ASRock」を使用した製品を実際に製造・販売し,本件商標の出願日である平成15年9月18日までの間に,台湾,韓国,中国等を始めてとして世界各地で引用商標を付した製品が販売されていたこと,引用商標の「ASRock」という文字構成は,それ自体意味を有する一般的な単語ではなく,「AS」と「Rock」という英単語の結合商標とみたとしても,その組合せも一般的とはいえず,ましてや電子機器分野において一般的に使用されるような言葉ではないことからすれば,「ASRock」という文字構成自体にある程度の独創性が認められ,少なくとも,電子機器関連の製品に使用する商標として容易に思いつくものとは考えられないこと,被告はコンピューター及びソフトウェアを登載した電子機器等の分野に精通している人物であると認められ,同分野の「事業者登録証明」(乙20の1),「情報通信機器認証書」(乙20の3)及び「通信販売業申告書」(乙53)を有して電子機器関連の分野に携わり,実際に商品をインターネットオークションにおいて出品していることからすれば,同分野のウェブサイトを頻繁に閲覧していたものと思われること,被告は,韓国において,本件商標を含め,コンピュ
ーターやソフトウェアを収録した電子機器分野に関連する様々な商標を13件も出願しており,その中にはカナダのMatrox社が同社のGPU及びそれを搭載したビデオカードに商標として「parhelia」を付すことを公表してから2か月も経過していない時期に出願されたのと同一の商標やイギリスのGale Limited社がスピーカー等に使用している商標である「GALE」と同一の商標も含まれていること,これら多数の商標を出願している理由について,被告は何ら主張立証をしていないこと,以上の点を総合考慮すれば,被告による本件商標の韓国における原基礎登録出願は,本件ニュース報道の翌日に偶然に被告が独自に選択して韓国において出願されたものとは考えられず,むしろ,被告は,上記一連の報道を知り,将来「ASRock」という商標を付した電子機器関連製品が市場に出回ることを想定し,ASUSTeK社あるいはASRock社に先んじて「ASRock」という商標を自ら取得するために,本件商標の原基礎登録商標を出願したと推認するのが相当であり,少なくとも,本件商標の出願日(平成15年9月18日)においては,ASRock社が同社の製造販売する製品に引用商標を使用していることを知りつつ,本件商標の国際出願をしたと認めるのが相当である。

イ本件商標の出願の目的について
そして,被告の韓国における事業の実体は明らかではなく,実際に電子機器関連の製造・販売業を行っているか疑わしく,仮に真実事業を行っているとしても,個人営業であると認められ,事業の規模も極めて小規模と思われること,証拠上,製品の販売形態はインターネットオークションへの出品という特異な形態に限られて
いること,被告は,韓国在住であり,過去我が国において事業を行っていた形跡はなく,本件商標の出願から既に6年8か月が経過し,また,本件商標の登録後2年10か月が経ち,まもなく3年を経過しようという現在においても,我が国で事業を行っている証拠は存在しないことから(なお,「Yahoo!オークション」というインターネットオークションへの商品の出品をもって我が国における事業の実施と認めるのは相当ではない。),今後近い将来,我が国において本件商標の指定商品に関する事業を行う意思があるとは思われず,少なくとも,その可能性は限りなく低いと思われること,事業の実体がほとんどないにもかかわらず,電子機器関連の多数の商標を出願し,その中には,前述のとおり,他社が海外で使用する商標と同一類似の商標を故意に出願したとしか考えられない商標も複数含まれていること,被告は我が国で事業を行っていないにもかかわらず,本件商標登録後,原告を含め,引用商標を付したASRock社の製品を取り扱う複数の業者に対して,輸入販売中止を要求し,要求に応じなければ刑事告発・損害賠償請求を行う旨の多数の警告書を送付していること,韓国においては,ASRock社の製品の販売代理店に対して,過度な譲渡代金を要求していたこと,以上の事実を総合考慮すると,本件商標は,商標権の譲渡による不正な利益を得る目的あるいはASRock社及びその取扱業者に損害を与える目的で出願されたものといわざるを得ない。

この点について,審決は,本件商標と引用商標との外観の相違を挙げ,「被告が引用商標をそのまま剽窃したというような性質のものではなく」と判断している。

しかしながら,本件においては,上記認定の被告の本件商標の原基礎登録出願の経緯からすれば,被告は,当初,本件ニュース報道を通じて,ASRock社が「ASRock」という文字で構成された商標を使用するということのみを知ったにすぎず,当初の報道に接した時点では引用商標のようなデザイン構成までは知らなかったものと認められるから,他人の商標の剽窃的な出願であるか否かについては,被告が,文字構成において独創的な造語と認められる「ASROCK」と同一文字構成を使用した本件商標を出願した点こそ重視されるべきであって,引用商標と本件商標の外観上の相違は,被告の悪意の出願を否定する根拠となるものではないというべきである。

ウ以上のとおり,被告の本件商標の出願は,ASUSTeK社若しくはASRock社が商標として使用することを選択し,やがて我が国においても出願されるであろうと認められる商標を,先回りして,不正な目的をもって剽窃的に出願したものと認められるから,商標登録出願について先願主義を採用し,また,現に使用
していることを要件としていない我が国の法制度を前提としても,そのような出願は,健全な法感情に照らし条理上許されないというべきであり,また,商標法の目的(商標法1条)にも反し,公正な商標秩序を乱すものというべきであるから,出願当時,引用商標及び標章「ASRock」が周知・著名であったか否かにかかわらず,本件商標は「公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある商標」に該当するというべきである。

エしたがって,本件商標に,商標法4条1項7号を適用することができないとした審決の判断には誤りがある。




かなり思い切った事実認定をしています。

外観上の相違なんて関係ない
旨とまでいっています。


報道があり,それを知り,出願を先んじる方法について,
抑制したといえます。

ただ,ここまで揉めますので大変といえば大変ですね。

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