2010年10月5日火曜日

無料メルマガの一部:知財高裁大合議平成18年1月31月判決(平成17年(ネ)第100212号特許権侵害差止請求控訴事件)

無料メルマガ3号予定

知財高裁大合議平成18年1月31月判決(平成17年(ネ)第100212
号特許権侵害差止請求控訴事件

のいわゆる「第1類型・第2類型」の判断基準です。
最高裁で基準が変わった以上,

無料メルマガの本文自体に載せることが
(全文を)できませんでした
(途中まで削った)。


そのため,

ここに書いておきます。

私自身は,この基準変更のために頑張りましたが,
緻密な論法を積み重ねており,

法律文書の模範としては,

消すのはもったいないと思ったためです。

第1類型・第2類型を立てる理由,
「修理」「生産」アプローチを立てる理由,
極めて緻密に論理を積み重ねています。

緻密すぎて使いにくい
というのが,正直なところでしょうか。

最高裁が出て,
受験生は助かったでしょうか(覚えるの大変です)。


この事件は,技術的範囲に関しては争われませんでした。

そのため,その先の消尽論が真正面から争われることになりました。


方法の発明に関する部分は,最高裁で直接言及されていませんので,
この点についてはメルマガ本文に載せることにしました。

……………………………………………………・↓本文ここから



1 国内販売分の控訴人製品にインクを再充填するなどして製品化された被控
訴人製品について物の発明(本件発明1)に係る本件特許権に基づく権利行使
をすることの許否

(1) 物の発明に係る特許権の消尽

ア 特許権者又は特許権者から許諾を受けた実施権者が我が国の国内において
当該特許発明に係る製品(以下「特許製品」という。)を譲渡した場合には,
当該特許製品については特許権はその目的を達したものとして消尽し,もはや
特許権者は,当該特許製品を使用し,譲渡し又は貸し渡す行為等に対し,特許
権に基づく差止請求権等を行使することができないというべきである(BBS
事件最高裁判決参照)。

イ しかしながら,(ア) 当該特許製品が製品としての本来の耐用期間を経過し
てその効用を終えた後に再使用又は再生利用がされた場合(以下「第1類型」
という。),又は,(イ) 当該特許製品につき第三者により特許製品中の特許発
明の本質的部分を構成する部材の全部又は一部につき加工又は交換がされた場
合(以下「第2類型」という。)には,特許権は消尽せず,特許権者は,当該
特許製品について特許権に基づく権利行使をすることが許されるものと解する
のが相当である。

 その理由は,第1類型については,「1」 一般の取引行為におけるのと同
様,特許製品についても,譲受人が目的物につき特許権者の権利行使を離れて
自由に業として使用し再譲渡等をすることができる権利を取得することを前提
として,市場における取引行為が行われるものであるが,上記の使用ないし再
譲渡等は,特許製品がその作用効果を奏していることを前提とするものであ
り,年月の経過に伴う部材の摩耗や成分の劣化等により作用効果を奏しなくなっ
た場合に譲受人が当該製品を使用ないし再譲渡することまでをも想定している
ものではないから,その効用を終えた後に再使用又は再生利用された特許製品
に特許権の効力が及ぶと解しても,市場における商品の自由な流通を阻害する
ことにはならず,「2」 特許権者は,特許製品の譲渡に当たって,当該製品が
効用を終えるまでの間の使用ないし再譲渡等に対応する限度で特許発明の公開
の対価を取得しているものであるから,効用を終えた後に再使用又は再生利用
された特許製品に特許権の効力が及ぶと解しても,特許権者が二重に利得を得
ることにはならず,他方,効用を終えた特許製品に加工等を施したものが使用
ないし再譲渡されるときには,特許製品の新たな需要の機会を奪い,特許権者
を害することとなるからである。また,第2類型については,特許製品につき
第三者により特許製品中の特許発明の本質的部分を構成する部材の全部又は一
部につき加工又は交換がされた場合には,特許発明の実施品という観点からみ
ると,もはや譲渡に当たって特許権者が特許発明の公開の対価を取得した特許
製品と同一の製品ということができないのであって,これに対して特許権の効
力が及ぶと解しても,市場における商品の自由な流通が阻害されることはない
し,かえって,特許権の効力が及ばないとすると,特許製品の新たな需要の機
会を奪われることとなって,特許権者が害されるからである。



 そして,第1類型に該当するかどうかは,特許製品を基準として,当該製品
が製品としての効用を終えたかどうかにより判断されるのに対し,第2類型に
該当するかどうかは,特許発明を基準として,特許発明の本質的部分を構成す
る部材の全部又は一部につき加工又は交換がされたかどうかにより判断される
べきものである。したがって,特許発明の本質的部分を構成する部材の全部又
は一部が損傷又は喪失したことにより製品としての効用を終えた場合に,当該
部材につき加工又は交換がされたときは,第1類型にも第2類型にも該当する
こととなる。また,加工又は交換がされた対象が特許発明の本質的部分を構成
する部材に当たらない場合には,第2類型には該当しないが,製品としての効
用を終えたと認められるときは,第1類型に該当するということができる。

ウ なお,原審は,「特許権の効力のうち生産する権利については,もともと
消尽はあり得ないから,特許製品を適法に購入した者であっても,新たに別個
の実施対象を生産するものと評価される行為をすれば,特許権を侵害すること
になる。」,「本件のようなリサイクル品について,新たな生産か,それに達
しない修理の範囲内かの判断は,特許製品の機能,構造,材質,用途などの客
観的な性質,特許発明の内容,特許製品の通常の使用形態,加えられた加工の
程度,取引の実情等を総合考慮して判断すべきである。」と判示し,特許製品
に施された加工又は交換が「修理」であるか「生産」であるかにより,特許権
侵害の成否を判断すべきものとした。

 確かに,本件のような事案における特許権侵害の成否を「修理」又は「生産」
のいずれに当たるかによって判断すべきものとする原判決の考え方は,学説等
においても広く提唱されているところである。

 しかし,このような考え方では,特許製品に物理的な変更が加えられない場
合に関しては,生産であるか修理であるかによって特許権に基づく権利行使の
許否を判断することは困難である。また,この見解は,「生産」の語を特許法
2条3項1号にいう「生産」と異なる意味で用いるものであって,生産の概念
を混乱させるおそれがある上,特許製品中の特許発明の本質的部分を構成する
部材の全部又は一部につき加工又は交換がされた場合であっても,当該製品の
通常の使用形態,加えられた加工の程度や取引の実情等の事情により「生産」
に該当しないものとして,特許権に基づく権利行使をすることが許されないこ
ともあり得るという趣旨であれば,判断手法として是認することはできない。

エ まず,第1類型にいう特許製品が製品としての本来の耐用期間が経過して
その効用を終えた場合とは,特許製品について,社会的ないし経済的な見地か
ら決すべきものであり,(a) 当該製品の通常の用法の下において製品の部材が
物理的に摩耗し,あるいはその成分が化学的に変化したなどの理由により当該
製品の使用が実際に不可能となった場合がその典型であるが,(b) 物理的ない
し化学的には複数回ないし長期間にわたっての使用が可能であるにもかかわら
ず保健衛生等の観点から使用回数ないし使用期間が限定されている製品(例え
ば,使い捨て注射器や服用薬など)にあっては,当該使用回数ないし使用期間
を経たものは,たとえ物理的ないし化学的には当該制限を超えた回数ないし期
間の使用が可能であっても,社会通念上効用を終えたものとして,第1類型に
該当するというべきである。

 第1類型のうち,前者(上記(a))については,特許製品につき,消耗部材
(例えば,電気機器における電池やエアコンにおける集じんフィルターなど)
や製品全体と比べて耐用期間の短い一部の部材(例えば,電気機器における電
球や水中用機器における防水用パッキングなど)を交換し,あるいは損傷した
一部の部材につき加工又は交換をしたとしても,当該製品の通常の用法の下に
おける修理であると認められるときは,製品がその効用を終えたということは
できない。これに対し,当該製品の主要な部材に大規模な加工を施し又は交換
したり,あるいは部材の大部分を交換したりする行為は,上記の意義における
修理の域を超えて当該製品の耐用期間を不当に伸長するものというべきである
から,当該加工又は交換がされた時点で当該製品は効用を終えたものと解する
のが相当である。この場合において,当該加工又は交換が製品の通常の用法の
下における修理に該当するかどうかは,当該部材が製品中において果たす機
能,当該部品の耐用期間,加えられた加工の態様,程度,当該製品の機能,構
造,材質,用途,使用形態,取引の実情等の事情を総合考慮して判断されるべ
きものである。また,主要な部材であるか,大部分の部材であるかどうかは,
特許発明を基準として技術的な観点から判断するのではなく,製品自体を基準
として,当該部材の占める経済的な価値の重要性や量的割合の観点から判断す
べきである。 

そして,特許権の消尽が,特許法による発明の保護と社会公共の利益の調和と
の観点から認められること(BBS事件最高裁判決参照)に照らせば,特許権
者の意思によって消尽を妨げることはできないというべきであるから,特許製
品において,消耗部材や耐用期間の短い部材の交換を困難とするような構成と
されている(例えば,電池ケースの蓋が溶着により封緘されているなど)とし
ても,当該構成が特許発明の目的に照らして不可避の構成であるか,又は特許
製品の属する分野における同種の製品が一般的に有する構成でない限り,当該
部材を交換する行為が通常の用法の下における修理に該当すると判断すること
は妨げられないというべきである。その点にかんがみれば,第三者による部材
の加工又は交換が通常の用法の下における修理に該当するか,使用回数ないし
使用期間の満了により製品が効用を終えたことになるのかは,特許製品に関す
る上記の事情に加えて,当該製品の属する分野における同種の製品が一般的に
有する機能,構造,材質,用途,使用形態,取引の実情等をも総合考慮して判
断されるべきものである。

 さらに,後者(上記(b))については,使用回数ないし使用期間が一定の回数
ないし期間に限定されることが,法令等において規定されているか,あるいは
社会的に強固な共通認識として形成されている場合が,これに当たるものと解
するのが相当である。したがって,単に特許権者等が特許製品の使用回数や使
用期間を制限して製品にその旨を表示するなどしただけで,当該制限に達する
ことにより製品がその効用を終えたことになるものではない。

オ 次に,第2類型は,上記のとおり,特許製品につき第三者により特許製品
中の特許発明の本質的部分を構成する部材の全部又は一部につき加工又は交換
がされたことをいうものであるが,ここにいう本質的部分の意義については,
次のように解すべきである。

 特許権は,従来の技術では解決することのできなかった課題を,新規かつ進
歩性を備えた構成により解決することに成功した発明に対して付与されるもの
である(特許法29条参照)。すなわち,特許法が保護しようとする発明の実
質的価値は,従来技術では達成し得なかった技術的課題の解決を実現するため
の,従来技術にはみられない特有の技術的思想に基づく解決手段を,具体的構
成をもって公開した点にあるから,特許請求の範囲に記載された構成のうち,
当該特許発明特有の解決手段を基礎付ける技術的思想の中核を成す特徴的部分
をもって,特許発明における本質的部分と理解すべきものである。特許権者の
独占権は上記のような公開の代償として与えられるのであるから,特許製品に
つき第三者により新たに特許発明の本質的部分を構成する部材の全部又は一部
につき加工又は交換がされた場合には,特許権者が特許法上の独占権の対価に
見合うものとして当該特許製品に付与したものはもはや残存しない状態とな
り,もはや特許権者が譲渡した特許製品と同一の製品ということはできない。
したがって,このような場合には,特許権者は当該製品について特許権に基づ
く権利行使をすることが許されるというべきである。これに対して,特許請求
の範囲に記載された構成に係る部材であっても,特許発明の本質的部分を構成
しない部材につき加工又は交換がされたにとどまる場合には,第1類型に該当
するものとして特許権が消尽しないことがあるのは格別,第2類型の観点から
は,特許権者が譲渡した特許製品との同一性は失われていないものとして,特
許権に基づく権利行使をすることが許されないと解すべきである。


(2) 本件における認定事実


ア 本件発明1の特許請求の範囲


イ 本件明細書の記載(甲2)


(ア) 控訴人を含めたインクジェットプリンタの製造業者は,それぞれ自社の
プリンタに使用されるインクタンク(いわゆる純正品)の販売を行っている。
 

・・・,控訴人を含む純正品の製造業者が,リサイクル品や詰め替えインクの
製造販売をしていることを示す証拠はない。

 また,インクジェットプリンタ用インクタンクのリサイクル品や詰め替えイ
ンクは,米国や欧州諸国でも販売されている。



 インクジェットプリンタでの印刷に供した場合の印刷結果を比較すると,普
通紙に印刷した場合には発色,色合い等に大きな差異はない(画像を拡大して
目を凝らして観察すると違いが分かるが,実用上は問題とならない程度の差異
にとどまる。)ものの,リサイクル品は,外光に対する耐久性に劣る,写真印
刷における発色や色合いが劣るなどといった点で,品質に差異がある。また,
リサイクル品を使用するとプリンタ本体に目詰まり等の不具合が生ずるおそれ
があることも指摘されている。

(ウ) 控訴人は,上記エ(ウ)のとおり,控訴人製品の包装箱,ウェブサイト等
を通じて,控訴人製品の使用者に対し,使用済みインクタンクの回収への協力
を呼び掛けている。控訴人は,回収した使用済みインクタンクを分別した上
で,セメント製造工程における熱源として,主燃料である石炭の一部を代替す
る補助燃料に使用し,燃えかすはセメントの原材料に混ぜて使用しており,使
用済みインクタンクを廃棄することはない。

 また,控訴人以外の純正品の製造業者も,使用済み品の回収及び再資源化に
取り組んでいる。リサイクル品の製造業者の中にも,使用済みインクタンクを
有償又は無償で回収するものがある。

 株式会社BCNによる前記調査によれば,使用後のインクタンクの処理につ
いては,平成16年4月の調査では,自宅でごみとして廃棄する者が約48
%,業者が設置した回収箱に入れる者が約46%であり,平成17年2月の調
査では,それぞれ約42%,約51%であった。


(3) 第1類型の該当性

 上記事実関係に基づき,まず,控訴人製品について,当初に充填されたイン
クが費消されたことをもって,特許製品が製品としての本来の耐用期間を経過
してその効用を終えたものとなるかどうかについて判断する。

ア インク費消後における控訴人製品の状態等


・・・,インク収納容器として再度使用することは可能な状態にあるものと認
められる。そして,インクは正に消耗部材であるから,控訴人製品のうちイン
クタンク本体に着目した場合には,インク費消後の控訴人製品にインクを再充
填する行為は,インクタンクとしての通常の用法の下における消耗部材の交換
に該当することとなる。

イ インク費消後の本件インクタンク本体に対する加工等の内容


・・・したがって,被控訴人製品を製品化する工程において,本件インクタン
ク本体に穴を開ける工程が含まれていることをもって,丙会社の行為を,消耗
部材の交換に該当しないということはできない。また,前記(2)カのとおり,イ
ンクジェットプリンタ用インクの分野においては,純正品のインクタンクの使
用済み品にインクを再充填するなどした,いわゆるリサイクル品が販売されて
いるところ,それらの製品の製造方法がおおむね被控訴人製品の製造方法と同
じであることに照らしても,被控訴人製品の製品化に際して,本件インクタン
ク本体に穴を開ける工程が含まれていることをもって,消耗部材の交換に該当
しないということはできない。

ウ インクジェットプリンタ用インクの分野におけるリサイクルの状況

 前記(2)カのとおり,インクジェットプリンタ用インクの分野においては,控
訴人製品を含めた純正品だけでなく,リサイクル品や詰め替えインクも販売さ
れていること,リサイクル品は,純正品に比べると品質面では劣るものの,価
格が低いことなどからこれを利用する者も少なからず存在することが認められ
る。そして,使用済み品を廃棄せずに再使用することは,環境の保全に資する
ものであって,特許権等の他人の権利や利益を害する場合を除いては,広く奨
励されるべきものであり,使用済みインクタンクの再使用については,これを
禁止する法令等は存在しない。

 この点に関して,控訴人は,被控訴人の行為は,資源の再利用や環境保護に
資するものではなく,かえってリサイクル関連法が目指す循環型社会の形成に
逆行するものである旨主張する。

 そこで,検討すると,・・・

 しかしながら,被控訴人製品は,使用済みの控訴人製品を廃棄することな
く,インクタンクとして再使用したものであり,同一のインクタンクを複数回
使用することにより廃棄されるインクタンクの量を減少させることが可能であ
る。そもそも使用済み製品の熱源としての利用は,当該製品を廃棄物としてそ
のまま地上に放置し,地下に埋設し,あるいは焼却能力の劣る焼却機器により
焼却することに比べれば,自然環境に与える影響を改善したものということは
できるが,有限な化石燃料資源を有効利用し,二酸化炭素排出量を抑制すると
いう観点をも併せ考えるときには,循環資源の循環的利用として再使用に劣る
ものであることは明らかである。また,被控訴人製品に用いられている本件イ
ンクタンク本体は控訴人により製造されたものであるから,被控訴人製品とし
てインクを再充填されたものであっても,その使用後は,控訴人製造に係る本
件インクタンク本体として控訴人による使用済み製品の回収の対象として,熱
源利用されることになるものと考えられる。

 そうすると,控訴人において,控訴人製品が使い切り型のインクタンクであ
ることを示すとともに,使用済み品の回収を図るため,控訴人製品の使用者に
対して,控訴人製品の包装箱,控訴人製のインクジェットプリンタの使用説明
書,控訴人のウェブサイトにおいて,使用済みのインクタンクの回収活動への
協力を呼び掛けていることなどの事情を勘案しても,上記の事情に照らせば,
インクタンクの利用が1回に限られる旨の認識が社会的に強固な共通認識とし
て形成されているということはできない。

エ 小括

 以上によれば,インク費消後の控訴人製品の本件インクタンク本体にインク
を再充填する行為は,特許製品を基準として,当該製品が製品としての効用を
終えたかどうかという観点からみた場合には,インクタンクとしての通常の用
法の下における消耗部材の交換に該当するし,また,インクタンク本体の利用
が当初に充填されたインクの使用に限定されることが,法令等において規定さ
れているものでも,社会的に強固な共通認識として形成されているものでもな
いから,当初に充填されたインクが費消されたことをもって,特許製品が製品
としての本来の耐用期間を経過してその効用を終えたものとなるということは
できない。 したがって,本件において,特許権が消尽しない第1類型には該
当しないといわざるを得ない。

(4) 第2類型の該当性

 進んで,控訴人製品について,第三者(丙会社)により特許製品(控訴人製
品)中の特許発明(本件発明1)の本質的部分を構成する部材の全部又は一部
につき加工又は交換がされたといえるかどうかについて判断する。

ア 本件発明1の内容

 本件発明1は,インクジェットプリンタに使用されるインクタンク等に関す
るものであり,前記認定事実によれば,特許発明の内容については,次のよう
に解することができる。

(ア)

・・・,圧接部の界面全体が液体を保持することが可能な量の液体が充填され
ているという構成(構成要件K)を採用することによって,負圧発生部材の界
面に空気の移動を妨げる障壁を形成することとした点に,従来のインクタンク
にはみられない技術的思想の中核を成す特徴的部分があると認められる。

・・・したがって,本件発明1の目的は,上記「1」及び「2」の両者の構成
が備わって初めて達成することができるのであるから,構成要件H及びKのい
ずれもが本件発明1の本質的部分であると解すべきである。



イ インク費消後の本件インクタンク本体へのインクの再充填

 丙会社がインク費消後の控訴人製品を用いて被控訴人製品を製品化する工
程は,前記(2)オ(ア)のとおりであり,本件インクタンク本体の液体収納室の上
面に穴を開け,本件インクタンク本体の内部を洗浄し,負圧発生部材収納室の
負圧発生部材の圧接部の界面を超える部分までと,液体収納室全体に,インク
を注入するという工程を含むものである。

 そこで,検討すると,控訴人製品の使用者が本件発明1に係るインクタン
クを使用することにより,液体収納室及び負圧発生部材収納室内のインクが減
少し,構成要件Kの充足性を欠くに至るから,インクが費消された後の本件イ
ンクタンク本体が構成要件Kの充足性を欠いていることは明らかである。


・・・そうすると,プリンタから取り外された後に上記の期間が経過し,圧接
部の界面の繊維材料の内部の多数の微細な空隙に付着したインクが不均一な状
態で乾燥して固着し,空隙の内部に気泡や空気層ができ,新たにインクを吸収
して保持することが妨げられているものと認められる本件インクタンク本体に
おいては,構成要件Hを充足しない状態となっているというべきである。

 したがって,本件インクタンク本体の内部を洗浄して固着したインクを洗い
流した上,これに構成要件Kを充足する一定量のインクを再充填する行為は,
特許発明を基準として,特許発明特有の解決手段を基礎付ける技術的思想の中
核を成す特徴的部分という観点からみた場合には,控訴人製品において本件発
明1の本質的部分を構成する部材の一部である圧接部の界面の機能を回復させ
るとともに,上記の量のインクを再び備えさせるものであり,構成要件H及び
Kの再充足による空気の移動を妨げる障壁の形成という本件発明1の目的(開
封時のインク漏れの防止)達成の手段に不可欠の行為として,特許製品中の特
許発明の本質的部分を構成する部材の一部についての加工又は交換にほかなら
ないといわなければならない。

ウ 小括

 以上によれば,被控訴人製品は,控訴人製品中の本件発明1の特許請求の範
囲に記載された部材につき丙会社により加工又は交換がされたものであるとこ
ろ,この部材は本件発明1の本質的部分を構成する部材の一部に当たるから,
本件は,第2類型に該当するものとして特許権は消尽せず,控訴人が,被控訴
人製品について,本件発明1に係る本件特許権に基づく権利行使をすること
は,許されるというべきである。

(5) 被控訴人の当審における主張について
 被控訴人は,控訴人による本件特許権に基づく権利行使が認められないと
解すべき根拠として,環境保全の観点からもリサイクル品である被控訴人製品の輸
入,販売等を禁止すべきではないこと,控訴人のビジネスモデルが不当なものであ
ることを主張するが,これらの主張が権利の濫用等をいう趣旨のものであるとして
も,以下のとおり,いずれも採用し難いというべきである。

ア 環境保全の観点について

(ア) ・・・そうすると,たとえ,特許権の行使を認めることによって環境保
全の理念に反する結果が生ずる場合があるとしても,そのことから直ちに,当
該特許権の行使が権利の濫用等に当たるとして否定されるべきいわれはないと
解すべきである。

(イ) 被控訴人製品は,使用済みの控訴人製品を廃棄することなく,インクタ
ンクとして再使用したものであるから,この面だけをみるならば,被控訴人の
行為は,廃棄物等(前記(3)ウ参照)を減少させるものであって,環境保全の理
念に沿うものであり,これに対する本件特許権に基づく権利行使を認めること
は同理念に反するおそれがあるということができる。 

しかし,前記(3)ウに判示したとおり,循環型社会において行われるべき循環資
源の循環的な利用とは,再使用及び再生利用に限られるものではなく,熱回収
も含むのであるから,使用済みの控訴人製品をインクタンクとして再使用する
ことだけでなく,これを熱源として使用することも,環境負荷への影響の程度
等において差はあっても,環境保全の理念に合致する行為であるところ,本件
において,控訴人が,控訴人製品の使用者に対して使用済みの控訴人製品の回
収に協力するよう呼び掛け,現に相当量の使用済み品を回収し(インクジェッ
トプリンタの使用者に対するアンケート調査によれば,使用後のインクタンク
を業者が設置した回収箱に入れる者は,全体の約半数に上っている。),分別
した上で,セメント製造工程における熱源として,主燃料である石炭の一部を
代替する補助燃料に使用し,燃えかすはセメントの原材料に混ぜて使用してい
ることは,前記(2)エ(ウ)及び(2)カ(ウ)認定のとおりである。そうすると,本
件の事実関係の下では,被控訴人の行為のみが環境保全の理念に合致し,リサ
イクル品である被控訴人製品の輸入,販売等の差止めを求める控訴人の行為が
環境保全の理念に反するということはできない。

(ウ) なお,被控訴人は,控訴人による本件特許権に基づく権利行使を認める
と,リサイクル品の市場が死滅させられることとなり,国際的なビジネスや消
費者保護の観点からしても相当でないとも主張する。


 しかし,本件において,本件特許権に基づく権利行使を認めるとの結論に至っ
たとしても,それは,上述のとおり,特許製品につき第三者により特許製品中
の特許発明の本質的部分を構成する部材の一部につき加工又は交換がされたか
らにほかならないのであって,もとよりリサイクル品の製造,販売等が一切禁
止されるべきことをいうものではない。純正品が特許発明の実施品でない場合
にはリサイクル品の製造,販売等が特許権侵害に問われる余地はないし,純正
品が特許発明の実施品である場合においても,特許権が消尽するときは,同様
である。被控訴人の上記主張は,本件の論点を正解しないものであって,失当
といわざるを得ない。

イ 控訴人のビジネスモデルについて

 被控訴人は,控訴人のビジネスモデル(プリンタ本体を廉価で販売し,これ
を購入した顧客が純正品のインクタンクを高額で購入せざるを得ないようにし
て,不当な利益を得ようとすること)に照らすと,控訴人による本件特許権に
基づく権利行使を認めることは,消費者の利益を害し,特許権者を過剰に保護
するものであって,容認することができないと主張する。

 しかし,まず,控訴人のビジネスモデルが被控訴人主張のようなものである
ことを認めるに足りる証拠はない。・・・,控訴人の販売するプリンタ本体の
価格が不当に低く,純正品のインクタンクが不当に高いことを客観的に裏付け
る証拠は見当たらない。

 また,特許権者は,産業上利用することのできる発明をして公開したことの
代償として,特許発明の実施を独占して利益を得ることが認められているので
あり,特許製品や他の取扱製品の価格をどのように設定するかは,その価格設
定が独占禁止法等の定める公益秩序に反するものであるなど特段の事情のない
限り,特許権者の判断にゆだねられているということができるが,本件におい
て,そのような特段の事情をうかがわせる証拠を見いだすことはできない。

 しかも,仮に,被控訴人の主張するように,純正品の価格が製造原価を大幅
に上回るものであるとしても,純正品とリサイクル品との価格差(前記(2)カ
(イ)認定のとおり,1個当たりの小売価格は,純正品が800円~1000円
程度,リサイクル品が600円~700円程度である。)並びに控訴人及び被
控訴人が負担する費用(被控訴人の側においては,リサイクル品の製造,輸送
等に費用を要するとしても,特許発明に関する研究開発費,本件インクタンク
本体の製造費用等の負担を免れているわけである。)を勘案すると,控訴人が
純正品の販売により過大な利益を得ているとすれば,被控訴人においても過大
な利益を得ていることとなるから,そのような被控訴人が消費者保護の見地か
ら控訴人の本件特許権に基づく権利行使を否定すべき旨をいう主張は,採用の
限りではない。

(6) 結論

 以上のとおり,被控訴人製品については,当初に充填されたインクが費消さ
れたことをもって,特許製品が製品としての本来の耐用期間を経過してその効
用を終えた後に再使用又は再生利用がされた場合(第1類型)に該当するとい
うことはできないが,丙会社によって構成要件H及びKを再充足させる工程に
より被控訴人製品として製品化されたことで,特許製品につき第三者により特
許製品中の特許発明の本質的部分を構成する部材の全部又は一部につき加工又
は交換がされた場合(第2類型)に該当するから,本件発明1に係る本件特許
権は消尽しない。

 したがって,控訴人は,被控訴人に対し,本件発明1に係る本件特許権に基
づき,国内販売分の控訴人製品に由来する被控訴人製品の輸入,販売等の差止
め及び廃棄を求めることができる。

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方法の発明についてはメルマガ本文に残したかったので,
ここに載せました。

国外・物の発明↓
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3 国外販売分の控訴人製品にインクを再充填するなどして製品化された被控
訴人製品について本件特許権に基づく権利行使をすることの許否

(1) 物の発明に係る特許権について
ア 特許権に基づく権利行使の許否

 我が国の特許権者又はこれと同視し得る者が国外において特許製品を譲渡し
た場合,特許権者は,譲受人に対しては,当該製品について販売先ないし使用
地域から我が国を除外する旨の合意をしたときを除き,譲受人から特許製品を
譲り受けた第三者及びその後の転得者に対しては,譲受人との間でその旨の合
意をした上で特許製品にこれを明確に表示したときを除き,当該製品を我が国
に輸入し,国内で使用,譲渡等する行為に対して特許権に基づく権利行使をす
ることはできないというべきである(BBS事件最高裁判決)。本件におい
て,国外で販売された控訴人製品については,譲受人との間で販売先又は使用
地域から我が国を除外する旨の合意はされていないし,その旨が控訴人製品に
明示されてもいないことは,前記第2の2(4)イのとおりである。したがって,
国外で販売された控訴人製品を使用前の状態で輸入し,これを国内で使用,譲
渡等する行為は,本件特許権の行使の対象となるものではない。

 しかしながら,(ア) 当該特許製品が製品としての本来の耐用期間を経過して
その効用を終えた後に再使用又は再生利用がされた場合(第1類型),又は,
(イ) 当該特許製品につき第三者により特許製品中の特許発明の本質的部分を構
成する部材の全部又は一部につき加工又は交換がされた場合(第2類型)に
は,特許権者は,当該特許製品について特許権に基づく権利行使をすることが
許されるものと解するのが相当である。その理由は,国外での経済取引におい
ても,譲受人が目的物につき自由に業として使用し再譲渡等をすることができ
る権利を取得することを前提として,市場における取引行為が行われ,国外で
の取引行為により特許製品を取得した譲受人ないし転得者が,業として,これ
を我が国に輸入し,国内において,業として,これを使用し,又はこれを更に
他者に譲渡することは,当然に予想されるところであるが,「1」 上記の使用
ないし再譲渡等は,特許製品がその作用効果を奏していることを前提とするも
のであり,年月の経過に伴う部材の摩耗や成分の劣化等により作用効果を奏し
なくなった場合に譲受人ないし転得者が我が国の国内において当該製品を使用
ないし再譲渡することまでをも想定しているものではなく,また,「2」 特許
製品につき第三者により特許製品中の特許発明の本質的部分を構成する部材の
全部又は一部につき加工又は交換がされた場合に譲受人ないし転得者が我が国
の国内において当該製品を使用ないし再譲渡することまでをも想定しているも
のではないから,特許権者が留保を付さないまま特許製品を国外で譲渡したと
しても,譲受人ないし転得者に対して,上記の(ア),(イ)の場合にまで,我が
国において譲渡人の有する特許権の制限を受けないで当該製品を支配する権利
を黙示的に授与したと解することはできないからである。

イ 本件についての検討

 国内販売分の控訴人製品に由来する被控訴人製品について判示した(前記1
参照)のと同様の理由により,国外販売分の控訴人製品に由来する被控訴人製
品についても,当初に充填されたインクが費消されたことをもって,特許製品
が製品としての本来の耐用期間を経過してその効用を終えた後に再使用又は再
生利用がされた場合(第1類型)に該当するということはできないが,丙会社
によって構成要件H及びKを再充足させる工程により被控訴人製品として製品
化されたことで,特許製品につき第三者により特許製品中の特許発明の本質的
部分を構成する部材の一部につき加工又は交換がされた場合(第2類型)に該
当するということができる。

 したがって,控訴人は,被控訴人に対し,本件発明1に係る本件特許権に基
づき,国外販売分の控訴人製品に由来する被控訴人製品の輸入,販売等の差止
め及び廃棄を求めることができる。





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