2010年12月20日月曜日

検察審査会法:事件の範囲,指定弁護士の権限と義務

検察審査会法の議決に,
どの程度の拘束力があるか,起訴議決された場合,指定弁護士(検察審査会法49条の3第3項)の権限の範囲は,いかなるものか,話題になりました。

裁判例は,ありませんので,解釈を試みます。


1.「事件」の意義

まず,「事件」と記載された条文は,後記のとおりです(長いので最後に書く)


検察官が処分をするときは,罪となるべき事実を特定します。
この特定された罪となるべき事実について,処分がされます。

この罪となるべき事実として特定された犯罪事実には,法律的に全体として一罪とされていたり,複数の犯罪が含まれていたりします。

たとえば,殺人罪と死体遺棄は,法律的には,2罪となります(併合罪)。

たとえば,住居侵入罪と窃盗罪とは,法律的には,1罪となります(牽連犯)。


今回の事案(あえて特定しなくても分かるとおもいますのでしません)では,

政治資金規正法上の虚偽記載罪は,
少なくとも年度毎で犯罪事実は異なるとおもわれ,

年度毎で,複数の犯罪が成立することになるとおもいます。


検察審査会法で,「事件」という言葉が出てきていますが,検察官の処分の対象となった「事件」を指すことは明らかです。実体法上1罪であろうが複数罪であろうが,検察官が処分をした事件について,審査されることになります。


起訴議決の対象も,検察官の処分についてされます。

この「事件」の解釈としては,刑事訴訟法上では,「公訴事実の同一性」という法概念が用いられます。「事件」といえば,法律上1罪になるばあいを指します(本当は,もっと細かい議論はあるが,ひとまず,こうしておく)。

この議論の実益は,公訴中でいえば,同じ「事件」であれば,訴因変更で対応可能だが,違う「事件」ならば,追起訴をしなければならないということにあります。


検察審査会法では,元々,処分が審査対象となっており,刑事訴訟法上の「事件」の概念とは異なるといえます。


ここは結構意識されていませんが,重要な点です。刑事訴訟法上の「事件」の概念とは異なり,検察審査会法での「事件」は,公訴事実の同一性の範囲内を超える事件も対象とされることがある。それは,検察官の処分が対象となっているという点に特徴があります。


2.指定弁護士の権限

2.1. 条文

では,検察官の処分が,●●罪しかなかった場合で,これについて検察審査会の議決対象となったとする。

起訴議決されたのは,●●罪とこれとは別の○○罪の両方の犯罪であった場合,指定弁護士は,○○罪を起訴することができるか。本件では,これが法律上興味深い争点になります。



指定弁護士の権限ですが,これは,検察審査会法に規定があります。
「起訴議決に係る事件について、次条の規定により公訴を提起し、及びその公訴の維持をするため、検察官の職務を行う。」(検察審査会法49条の3第3項)


基本的には,この条文の解釈になります。


2.1.訴因変更は可能というしかない

まず,○○罪が,本来,●●罪と法律上1罪になるのであれば,起訴は当然可能とかんがえます。これは,○○罪について「公訴の維持」するために不可欠な行為となります。


たとえば,○○罪が住居侵入罪,●●罪が窃盗罪の場合です。もともと,○○罪で処分がされていますが,●●罪について処分がされていないからといって,検察官には,捜査の過程で,嫌疑が明らかとなれば,それについて捜査権限も訴追権限もあるといってよいのです。

もっと分かりやすい例が,○○罪の窃盗が,同じ時間・場所で,1万円を盗んだという例で,実は,5万円だった場合です。この場合,裁判の進行の中で,1万円から5万円に訴因変更が認められなければ,○○罪は無罪となってしまいます(縮小認定等の細かい議論は抜きにする)。


つまり,訴因変更が可能な,法律上1罪の場合は,当然に,議決の範囲を超えることが可能となると考えられます。指定弁護士は,検察官の職務を行うのですから,もちろん,起訴後の訴因変更も可能とかんがえられます。


2.2.追起訴は可能と考えられる。

では,起訴議決が,○○罪であった場合,そして,○○罪で起訴した場合,後に,法律上1罪とは認められない犯罪●●罪も発覚したばあいは,どうか?

わかり易くいうと,もともと,死体遺棄で処分,死体遺棄で起訴議決,死体遺棄で起訴,途中で,殺人罪が発覚した場合,この殺人罪については,起訴議決がないことになります。

仮に,指定弁護士の権限の範囲が,処分の範囲内でしかないとすれば,追起訴は,別に検察官がするということになります。


条文上は,

「起訴議決に係る事件について、次条の規定により公訴を提起し、及びその公訴の維持をするため、検察官の職務を行う。」(検察審査会法49条の3第3項)

とありますので,処分事実を超えた「事件」について,検察官の職務を行う権限はないということになれば,このような解釈も成り立ち得ます。

仮に,判決を○○罪で得ても,●●罪には影響しません。新たに,検察官が出てくるということでも,足りるという考えです。


しかし,実際問題としては,不都合が起こります。
つまり,公訴事実の同一性の範囲か否かというのは,やってみないと分からないというところがあるからです。

公訴事実の同一性のない事件について,指定弁護士には訴因変更だけしか権限がないとすれば,訴因変更前でも無罪,訴因変更後でも無罪になる可能性があります。しかも,死体遺棄・殺人のように分かりやすいのであれば,よいですが,裁判例もない場合,裁判所の最終的な判断で決められるということになります。

もっというと,指定弁護士に追起訴権限がないとすれば,被告人においても不利益といえます。裁判の負担が二重三重になる可能性があるからです。

起訴議決された○○罪事件の「公訴の維持」のためにも,検察官としての追起訴権限は,指定弁護士に当然あると解すべきです。


2.3.起訴権限は?

では,当初から,○○事件で処分されたが,●●事件も含めて起訴議決された場合,指定弁護士は,●●事件について起訴権限はあるか?

この問題は,一応分けて考えることができます。


「A」そもそも,指定弁護士において,●●事件について,起訴する権限はあるのか?

「B」そして,●●事件についても起訴議決として指定弁護士が起訴すべく強制力が働くか?


という点です。

まず,前者「A」ですが,先ほど書いたとおり,●●事件についての追起訴権限がある以上,●●事件の起訴権限もあると考えます。

追起訴は,検察官の職務に該当する以上,それを法が与えなかったと解釈するのは無理があります。そして,追起訴権限がある以上,当初からの起訴権限もあるとするのが,通常の解釈といえます。



2.5.「B」起訴議決事件以外の「事件」に強制力はあるか?

検察審査会法によれば,指定弁護士が起訴議決に拘束されるのは,審査対象となった「処分」に関する事実です。

この「処分」に関する事件については,指定弁護士は,起訴すべき強制力が働きます。

前の例でいうと,○○事件について起訴しないということはできないということになります。

また,同じ理由で,○○事件を起訴することなく,元々審査対象となっていない●●事件のみで起訴することもできないと考えられます。



それでは,○○事件と共に,●●事件について起訴するのは,どうか?

これについては,●●事件については指定弁護士は,起訴議決に基づく強制力がないといえます。しかし,●●事件について,起訴をするか否かの権限はあると考えられます。

もちろん,これについては,検察官が処分を行うということにはなりませんので,単に訴追対象とするか否かという権限です。


つまり,指定弁護士は,●●事件について起訴をすることもしないこともできる,仮に審査対象となっていない●●事件について起訴をしなくても違法ではないし,強制力はない,しかし,起訴したからといって違法でもないとかんがえるのが妥当だし,素直な解釈とかんがえます。


3.検察審査会の議決範囲

最後になりますが,元々から考えれば,検察審査会で,処分対象を超えた「事件」について議決できるのか?という点は一応問題になります。

しかし,議決されても,指定弁護士に起訴義務を与えるという強制力をもつことはありません。

最初の議決においても,改めて検察官が含めて処分を考えるか否かという裁量はあります。


元々,検察審査会は,
「第二条  検察審査会は、左の事項を掌る。
一  検察官の公訴を提起しない処分の当否の審査に関する事項」
をする義務があります。

処分について,処分範囲外の事実があるのではないか?あるにも関わらず,これについて考えないで不起訴処分とするのはおかしいという勧告的示唆をするのは,違法とまではいえないと考えられます。

これは,検察審査会法2条3項に,
「検察審査会は、その過半数による議決があるときは、自ら知り得た資料に基き職権で第一項第一号の審査を行うことができる」
とすることからも,処分外の事実についての審査が予定されていることも明らかです。

当初の処分についての当否について審査するために,処分外の事実を把握し,それを議決に反映することは,権限の範囲であるといえます。


そうとすれば,検察審査会が,検察官の処分外の事実について,処分の対象となった事実と一緒に審査することも,違法とはいえないと考えられます。





どんなものでしょうか?




……………………………………………………ここから条文引用↓

第二条  検察審査会は、左の事項を掌る。
一  検察官の公訴を提起しない処分の当否の審査に関する事項
二  検察事務の改善に関する建議又は勧告に関する事項
○2  検察審査会は、告訴若しくは告発をした者、請求を待つて受理すべき事件についての請求をした者又は犯罪により害を被つた者(犯罪により害を被つた者が死亡した場合においては、その配偶者、直系の親族又は兄弟姉妹)の申立てがあるときは、前項第一号の審査を行わなければならない。
○3  検察審査会は、その過半数による議決があるときは、自ら知り得た資料に基き職権で第一項第一号の審査を行うことができる

第七条  検察審査員は、次に掲げる場合には、職務の執行から除斥される。
一  検察審査員が被疑者又は被害者であるとき。
二  検察審査員が被疑者又は被害者の親族であるとき、又はあつたとき。
三  検察審査員が被疑者又は被害者の法定代理人、後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人又は補助監督人であるとき。
四  検察審査員が被疑者又は被害者の同居人又は被用者であるとき。
五  検察審査員が事件について告発又は請求をしたとき。
六  検察審査員が事件について証人又は鑑定人となつたとき。
七  検察審査員が事件について被疑者の代理人又は弁護人となつたとき。
八  検察審査員が事件について検察官又は司法警察職員として職務を行つたとき。




第三十条  第二条第二項に掲げる者は、検察官の公訴を提起しない処分に不服があるときは、その検察官の属する検察庁の所在地を管轄する検察審査会にその処分の当否の審査の申立てをすることができる。ただし、裁判所法第十六条第四号 に規定する事件並びに私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律 の規定に違反する罪に係る事件については、この限りでない。

第三十二条  検察官の公訴を提起しない処分の当否に関し検察審査会議の議決があつたときは、同一事件について更に審査の申立をすることはできない。

第三十九条の二  検察審査会は、審査を行うに当たり、法律に関する専門的な知見を補う必要があると認めるときは、弁護士の中から事件ごとに審査補助員を委嘱することができる。
○2  審査補助員の数は、一人とする。
○3  審査補助員は、検察審査会議において、検察審査会長の指揮監督を受けて、法律に関する学識経験に基づき、次に掲げる職務を行う。
一  当該事件に関係する法令及びその解釈を説明すること。
二  当該事件の事実上及び法律上の問題点を整理し、並びに当該問題点に関する証拠を整理すること。
三  当該事件の審査に関して法的見地から必要な助言を行うこと。
○4  検察審査会は、前項の職務を行つた審査補助員に第四十条の規定による議決書の作成を補助させることができる。
○5  審査補助員は、その職務を行うに当たつては、検察審査会が公訴権の実行に関し民意を反映させてその適正を図るため置かれたものであることを踏まえ、その自主的な判断を妨げるような言動をしてはならない。

第四十条  検察審査会は、審査の結果議決をしたときは、理由を附した議決書を作成し、その謄本を当該検察官を指揮監督する検事正及び検察官適格審査会に送付し、その議決後七日間当該検察審査会事務局の掲示場に議決の要旨を掲示し、且つ、第三十条の規定による申立をした者があるときは、その申立にかかる事件についての議決の要旨をこれに通知しなければならない。
第四十一条  検察審査会が第三十九条の五第一項第一号の議決をした場合において、前条の議決書の謄本の送付があつたときは、検察官は、速やかに、当該議決を参考にして、公訴を提起すべきか否かを検討した上、当該議決に係る事件について公訴を提起し、又はこれを提起しない処分をしなければならない。
○2  検察審査会が第三十九条の五第一項第二号の議決をした場合において、前条の議決書の謄本の送付があつたときは、検察官は、速やかに、当該議決を参考にして、当該公訴を提起しない処分の当否を検討した上、当該議決に係る事件について公訴を提起し、又はこれを提起しない処分をしなければならない。
○3  検察官は、前二項の処分をしたときは、直ちに、前二項の検察審査会にその旨を通知しなければならない。


第四十一条の七  検察審査会は、起訴議決をしたときは、議決書に、その認定した犯罪事実を記載しなければならない。この場合において、検察審査会は、できる限り日時、場所及び方法をもつて犯罪を構成する事実を特定しなければならない。
○2  検察審査会は、審査補助員に前項の議決書の作成を補助させなければならない。
○3  検察審査会は、第一項の議決書を作成したときは、第四十条に規定する措置をとるほか、その議決書の謄本を当該検察審査会の所在地を管轄する地方裁判所に送付しなければならない。ただし、適当と認めるときは、起訴議決に係る事件の犯罪地又は被疑者の住所、居所若しくは現在地を管轄するその他の地方裁判所に送付することができる。
第四十一条の八  検察官が同一の被疑事件について前にした公訴を提起しない処分と同一の理由により第四十一条第二項の公訴を提起しない処分をしたときは、第二条第二項に掲げる者は、その処分の当否の審査の申立てをすることができない。

 第七章 起訴議決に基づく公訴の提起等

第四十一条の九  第四十一条の七第三項の規定による議決書の謄本の送付があつたときは、裁判所は、起訴議決に係る事件について公訴の提起及びその維持に当たる者を弁護士の中から指定しなければならない。
○2  前項の場合において、議決書の謄本の送付を受けた地方裁判所が第四十一条の七第三項ただし書に規定する地方裁判所に該当するものではなかつたときも、前項の規定により裁判所がした指定は、その効力を失わない。
○3  指定弁護士(第一項の指定を受けた弁護士及び第四十一条の十一第二項の指定を受けた弁護士をいう。以下同じ。)は、起訴議決に係る事件について、次条の規定により公訴を提起し、及びその公訴の維持をするため、検察官の職務を行う。ただし、検察事務官及び司法警察職員に対する捜査の指揮は、検察官に嘱託してこれをしなければならない。
○4  第一項の裁判所は、公訴の提起前において、指定弁護士がその職務を行うに適さないと認めるときその他特別の事情があるときは、いつでもその指定を取り消すことができる。
○5  指定弁護士は、これを法令により公務に従事する職員とみなす。
○6  指定弁護士には、政令で定める額の手当を給する。
第四十一条の十  指定弁護士は、速やかに、起訴議決に係る事件について公訴を提起しなければならない。ただし、次の各号のいずれかに該当するときは、この限りでない。
一  被疑者が死亡し、又は被疑者たる法人が存続しなくなつたとき。
二  当該事件について、既に公訴が提起されその被告事件が裁判所に係属するとき、確定判決(刑事訴訟法第三百二十九条 及び第三百三十八条 の判決を除く。)を経たとき、刑が廃止されたとき又はその罪について大赦があつたとき。
三  起訴議決後に生じた事由により、当該事件について公訴を提起したときは刑事訴訟法第三百三十七条第四号 又は第三百三十八条第一号 若しくは第四号 に掲げる場合に該当することとなることが明らかであるとき。
○2  指定弁護士は、前項ただし書の規定により公訴を提起しないときは、速やかに、前条第一項の裁判所に同項の指定の取消しを申し立てなければならない。この場合において、当該裁判所は、前項ただし書各号に掲げる事由のいずれかがあると認めるときは、その指定を取り消すものとする。
○3  前項の裁判所は、同項の規定により指定を取り消したときは、起訴議決をした検察審査会にその旨を通知しなければならない。
第四十一条の十一  指定弁護士が公訴を提起した場合において、その被告事件の係属する裁判所は、当該指定弁護士がその職務を行うに適さないと認めるときその他特別の事情があるときは、いつでもその指定を取り消すことができる。
○2  前項の裁判所は、同項の規定により指定を取り消したとき又は審理の経過その他の事情にかんがみ必要と認めるときは、その被告事件について公訴の維持に当たる者を弁護士の中から指定することができる。
第四十一条の十二  指定弁護士は、公訴を提起した場合において、同一の事件について刑事訴訟法第二百六十二条第一項 の請求がされた地方裁判所があるときは、これに公訴を提起した旨を通知しなければならない。

……………………………………………………条文引用ここまで↑
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