2011年1月8日土曜日

商法512条:準委任的契約も含むソフトウェア開発業務委託契約

「企画、開発、移行、教育、運用、保守」という多元的な内容を含むソフトウェア開発業務委託契約において,専門家としての「助言」的傾向が強い業務,準委任契約として認められてもよいのではとする業務分野があります。


 ここで,「準委任契約」とは,「法律行為でない事務の委託」をする契約です(民法656条)。



経産省の「モデル・取引契約書」(http://www.meti.go.jp/policy/it_policy/keiyaku/model_keiyakusyo.pdf)でも,


準委任契約
A 要件定義支援及びパッケージソフトウェア候補選定支援業務契約(カス
タマイズモデル)
B パッケージソフトウェア選定支援及び要件定義支援業務契約(カスタマ
イズモデル)
C パッケージソフトウェア選定支援及び要件定義支援業務契約(オプショ
ンモデル)
D 外部設計支援業務契約請負


請負契約
E ソフトウェア設計・制作業務契約
F 構築・設定業務契約


準委任契約
G データ移行支援業務契約
H 運用テスト支援業務契約
I 導入教育支業務援契約
J 保守業務契約
K 運用支援業務契約

として,ソフトウェア開発委託業務において,準委任契約が(もちろん,これは有償である)含まれる可能性があることを認めています。


実際は,このように契約した方がいいというもので,実態としては逆の場合,または,きちんと契約していないがためにトラブルになりやすいから,モデル契約を提唱しているといってもよいでしょう。


このような場合,商法512条が現れます。近年,ソフトウェア開発委託業務に関して,商法512条の適用を認める判例が出現しています。

仕様変更部分について
「相当額の追加開発費支払義務(商法512条)が生じるものと解するの
が相当である」

とし商法512条の適用を認めた大阪地裁平成14年8月29日判決(平成11年(ワ)第965号,平成11年(ワ)第13193号)(以下「大阪地裁平成14年判決」ともいう)があります。

当該判決は,

(1) 仕様変更の意義について
ア ソフトウエア開発は、①要件定義、②外部設計、③内部設計、④ソー
スプログラムの作成(プログラム設計、コーディング)、⑤各種試験(単
体試験、組合せ試験、システム試験)の開発工程を経て進められるところ
(甲56、乙56、証人己)、本件開発委託契約では、前記第2、1、
(2)のとおり、契約に先立ち基本要件設計作業(前記①~⑤のうち、①要
件定義及び②外部設計に当たる。)が完了し、成果物として基本機能設計
書(乙8)が提出されているので、本件開発委託契約に基づき被告イー
ウェーヴが完了すべき業務の内容は、基本機能設計書(乙8)で確定され
た当初仕様(処理手順、操作画面の種類・相互関係、機能の表示・配置、
入出力項目、画面表示、階層関係等)を内部設計以降の作業によって実現
することであり、これが、本件開発委託契約に基づく報酬請求権と対価関
係に立つ業務の範囲であると解される。

イ 仕様変更の申出は、法的には、委託者による当初の契約に基づく業務
範囲を超える新たな業務委託契約の申込みと解され、これに対して受託者
が追加工事代金額を提示せず、追加代金額の合意がないまま追加委託に係
る業務を完了した場合には、委託者と受託者の間で代金額の定めのない新
たな請負契約が成立したものとして、相当の追加開発費支払義務が生じる
と解するのが相当である。したがって、委託者であるサヌキット又は原告
の委託の趣旨が、当初仕様である基本機能設計書(乙8)に示された処理
機能(乙56)、①土木出来形図面・数量計算書の作成の処理手順
(5~7頁)、②操作画面(ウインドウ)の種類、相互関係(10~37
頁)、③メニューバー中の機能の表示・配置(10~18頁)、④各操作
画面ごとの入出力項目・文言表示(10~37頁、40~60頁)、⑤入
力又は出力される測量値の表示態様(39頁)、⑥土木出来形図面・数量
計算書の階層関係(62~65頁)に変更を加えるものである場合には、
原則として仕様変更に該当し、原告及び同被告はいずれも会社であるから、
原告には、当該仕様変更部分について相当額の追加開発費支払義務(商法
512条)が生じるものと解するのが相当である。

もっとも、ソフトウエア開発においては、その性質上、外部設計の段階で
画面に文字を表示する書体やボタンの配置などの詳細までが決定されるも
のではなく(甲52)、詳細については、仕様確定後でも、当事者間の打
合せによりある程度修正が加えられるのが通常であることに鑑みると、こ
のような仕様の詳細化の要求までも仕様変更とすることは相当でないとい
うべきである。加えて、同被告の開発担当責任者である丙は、ボタン・メッ
セージの変更が仕様変更として追加開発費用の対象とならない場合がある
ことを認めていることによれば(証人丙)、仕様の詳細に関する変更は、
追加開発費用の対象とならないものと解するのが相当である。


としたものです。

具体的に報酬が発生すべき業務の範囲を認定することにより,一定の請求者の行為について商法512条の適用を認めたものと評価されます。


この判断手法・事実認定の手法は,
(1)元々の本来的業務に基づく有償とされるべき業務の範囲を定める。
(2)その有償の範囲を超えるが,それに匹敵すべき「業務の範囲」を定める。
(3)(2)の業務の範囲を執行していたかの検討
とまとめることができます。


大阪地裁平成14年判決は,明確には述べてはいませんが,ソフトウェア開発業者の本来的義務は,請負契約であることを認めたものと考えられます。契約における有償とされるべき本来的業務の範囲を明確に認定し(上記(1)),更に,商法512条に基づき「有償とされるべき業務の範囲」を元々の本来的業務と同等の「業務」を認定した上で(上記(2)),その「業務」を「完了」したと認定する(上記(3))ことにより,曖昧となりがちな商法512条の適用範囲を明確にしました。



この商法512条について,今,論文作成中です。


……………………………………………………
公式サイトGAEサイト携帯サイト